『病院の花嫁~愛の選択~』<第4話>~松宮ルート~

『病院の花嫁~愛の選択~』<第4話>~松宮ルート~

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美咲
(この番号、だれかしら……)

 

見覚えのない番号からの着信に、出ようか戸惑った。

 

美咲
(鳴りやまない……気になるから、出てみよう)

???
『もしもし』

美咲
(この声……)

美咲
「……松宮、先生?」

松宮
『今どこにいる?』

美咲
「……」

松宮
『立川先生がキミを見なかったかって探していて。あんまり慌てた様子だったから、気になって電話したんだ』

美咲
「どうして、私の番号を?」

松宮
『ナース・ステーションにあった連絡票をみて。ごめんな、勝手に拝借して』

 

(まさか松宮先生が電話をかけてきてくれるなんて……)

優しげな声を聞いている内に、涙がこみ上げてきた。

 

松宮
『築山?……泣いてるのか?』

美咲
(今、築山って…)

 

結婚したのはつい最近なのに、随分懐かしい旧姓に胸が高鳴る。

思わず「先輩」と呼んでしまいそうだった。

 

松宮
『もうすぐ勤務が終わる。
誰にも言わないから、居場所を教えてくれ』

 

あてもなく歩いていて、自分がどこにいるのか把握できていなかった。

周囲を見回し、駅前の商店街のはずれにいると気付いた。

 

美咲
「駅前の商店街、アーケードを抜けた辺りにいます」

松宮
『その辺りは街灯も少ないし、店が早く閉まるし暗くて危険だ。
そのまま真っ直ぐ行くと大通りに出る。タイムって喫茶店があるから、そこで待っていてくれ』

 

携帯を切り、細い路地を歩いていくと、大通りの明るい光が見えてきた。

孤独の暗闇の中にいた私に、一筋の光がさした気がした。


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降り続ける雨。

体は冷えきっていたが、もうすぐ松宮先生がやって来る。

そう思うと、胸が高鳴った。

 

松宮
「立川さん」

美咲
(名前…)

 

さっきみたいに築山、と呼んでくれない。

その事に、ふと寂しさを感じた。

 

美咲
(そうよね…私はもう、立川美咲だもの。
立川惣一朗さんの妻だもの…)

 

家を飛び出して初恋の人と真夜中にこんな場所にいる。

立川と呼ばれることで我に返り、ほんの少し罪悪感が湧いた。

 

松宮
「喫茶店で待つように言ったのに」

美咲
「ずぶ濡れだから、入りづらくて……」

 

松宮先生は着ていたシャツを脱ぎ、はおらせてくれた。

ますます胸の高鳴りは、激しくなる。

 

松宮
「風邪ひくぞ。
とりあえず、俺の部屋に行こう」

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松宮先生のマンションは、病院のすぐ近くにあった。

部屋の窓から立川病院が見える。

いつも働いている大好きな職場なのに……。

私は、あの病院の経営者の家族。

そう実感すると、胸が重苦しくなった。

 

松宮
「とりあえずシャワーあびて、これに着替えて。
かなり大きいかもしれないけど」

 

松宮先生先生が、Tシャツとスウェットを渡してくれた。

ふと、視線を感じる。

視線は、私の胸元に向けられていた。

着ていた白いブラウスが雨に濡れ、下着が透けて見えている事に気付き、恥ずかしさに、胸元を押さえた。

 

松宮
「あ、えっと、その…ゆっくり入れ、体冷えただろ」

美咲
「は、はい……」

 

何となくいたたまれなくて、慌てて浴室に駆け込む。

 

美咲
(私に、あんな視線を向けるなんて……)

 

体がほてるのは、熱いシャワーのせいじゃない。


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シャワーを浴びて部屋に戻ると、テーブルの上には、松宮先生が作ったホットミルクが置いてあった。

 

美咲
「あったかい、美味しい…ほっとする」

松宮
「ホットで、ほっとするか?」

美咲
「アハハ…!やだ、親父ギャグ!」

 

松宮先生の優しさが、凍りついた私の心を溶かしていく。

酷い仕打ちがきっかけであの家を飛び出せた。

がんじ絡めになった心が解放された気がする。

 

美咲
(やっぱり先輩のそばはあったかい……)

松宮
「少し、はちみつ入れといたんだ」

美咲
「あ、だから優しい甘さなんですね」

松宮
「気がきくだろ」

美咲
「ふふふ、本当に」

美咲
(このホットミルクよりも、松宮先生の笑顔が、私の冷えた体も心も温めてくれたのよ)

松宮
「ところで……
一体、何があったんだ」

 

松宮先生から笑顔が消え、真顔になった。

 

美咲
(この人なら、私の話を親身に聞いてくれるはず……)

 

私は、家を飛び出すことになった経緯を話し始めた。

 

美咲
「実は……」

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惣一朗
「どこに行ったんだ。実家にも、病院にもいないなんて」

 

苛立ち、室内をうろうろと歩いていた惣一朗が、ベッド脇のテーブルの上に携帯がないことに気付く。

 

惣一朗
「携帯……いつも、ここに置いてある携帯がない。美咲、家を飛び出す時、持ってでたのか?」

 

惣一朗は、携帯を手に取り、美咲の携帯にかけた。


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松宮
「ひどいな、泥棒扱いなんて……」

 

全てを聞き終わると、神妙な顔で松宮先生は呟いた。

その時、静まり返った室内に無機質な着信音が鳴り響く。

着信を見ると――。

 

美咲
(惣一朗さんからだ……)

松宮
「立川先生か?」

美咲
「はい」

松宮
「出なくていいのか?」

美咲
「……帰りたくない」

松宮
「……今夜は、ここに泊まるといい」

 

その言葉を聞き、私は携帯の電源を切った。

 

松宮
「この箱、何が入っているんだ?
随分、濡れているけど、乾かさなくても大丈夫か?」

美咲
「だめ! 開けないで!」

美咲
(その中には、松宮先生からもらったテニスボールと写真が入ってる。
見られたら、私の気持ちが知られてしまう)

 

慌てて取り返そうとして、松宮先生の手から箱は床に落ちてしまった。

蓋が開き、中身が床に転がる。

 

松宮
「これは……」

 

松宮先生は、テニスボールと写真を拾い、私を見つめた。

息が止まりそうな程、心臓が激しい鼓動をたてた。

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惣一朗は苛立ち、携帯を耳にあて叫んでいた。

 

惣一朗
「どうして出ない、美咲!」

 

惣一朗が再び携帯にかけると――。

 

音声ガイダンス
『お客様のおかけになった電話は、電波が届かない場所にあるか電源が入っておりません。
ピーッという着信音の後に…』

惣一朗
「ちくしょう! ふざけるな!」

 

惣一朗は、床に携帯を叩きつけた。

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真っ暗な部屋に、静かな雨音が響いていた。

お互い背中を向けて横たわった。

シングルベッドに大人二人が並ぶと、互いの息づかいが聞こえる程に距離は近い。

 

美咲
(心臓の音、松宮先生に聞こえてしまいそう……)

松宮
「悪いな、客用の布団もなくて……明日、布団や着替え、買ってくるから」

美咲
「えっ?」

 

思わずふり返ると、松宮先生も同時にこちらに顔を向けた為、唇が触れそうなった。

慌てて、互いにまた背中を向けた。

 

美咲
「明日も、いて良いの?」

松宮
「あ、えっと、そうだな……
君がいたいだけ、いればいい」

美咲
「……ありがとうございます」

松宮
「なぁ、壁をみるより、天井向いて寝た方が良くないか?」

美咲
「はい」

松宮
「あと、しばらく共同生活するんだ。敬語も止め」

美咲
「は…うん」

 

ベッド脇の壁にはりつくように背中を向けていた私は、仰向けになった。

二人並んで横たわり、同じ風景を見ている……。

 

美咲
(なんだか、不思議な気分……
こんな夜が来るなんて、夢にも思わなかった)

 

手と手が触れた。

互いに意識し一瞬離れたが、どちらからともなく手を寄せ合い握りあって眠りについた。


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松宮
「今日は診療だけだから、夕方には帰って来れるよ」

美咲
「いってらっしゃい」

 

松宮先生は、病院へ出勤して行った。

窓際から見える立川病院を見て思う。

 

美咲
(今日は、たまたま休みの日だったけど、明日はどうしよう……)

 

私が出勤するということは、立川家へ帰ることを意味する。

 

美咲
(患者さんの事が気がかりだし、看護師の同僚に迷惑をかけてしまうのは心苦しい。
でも、いまは……休むしかない。婦長に、連絡しよう)

 

携帯の電源を入れ、婦長に事情があって当分の間休むと連絡をした。

 

美咲
(充電器がないから直ぐに電池が切れてしまうわ。必要な時だけ電源を入れよう。
それに、また惣一朗さんから電話が入ると困るし……)

 

そう思って、携帯の電源を切った。

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松宮
「おはようございます」

惣一朗
「……」

 

松宮が挨拶するが、憔悴しきった様子の惣一朗は気付かない。

 

松宮
「あの、立川先生」

惣一朗
「あ、はい、すいません。ぼうっとしてて」

松宮
「何かあったんですか?」

惣一朗
「実は、美咲がいなくなったんです」

松宮
「奥さまが?」

惣一朗
「うちを飛び出した後、実家に寄ったみたいなんですが…
その後、行方が……」

松宮
「そうですか…」

惣一朗
「美咲の実家と相談し捜索願いを出そうと言ってるんですが。
うちの母が様子をみろときかなくて……」

 

肩を落とし、うな垂れる惣一朗を見て、松宮はそれ以上、言葉をかけることが出来なかった。

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心ここにあらずといった表情の惣一朗が、オペ室へ向かい歩いていると、婦長が声をかける。

 

婦長
「先生、美咲さん、どこか体の具合悪いんですか?」

惣一朗
「えっ? なぜ、そんな事を?」

婦長
「今朝、美咲さんから事情があって当分の間休むと連絡があって…声に元気がなかったから気になって」

 

惣一朗は、側にあったソファーに崩れるように座り込んでしまった。

 

婦長
「先生、どうかなさったんですか? 大丈夫ですか?」

 

自分の電話には出ないのに、婦長には連絡があった……。

美咲を心配する気持ちと同様に、無視された怒りと、男といるかもしれないという嫉妬が、惣一朗の心を支配していった。

 

婦長
「惣一朗先生、大丈夫ですか?顔が真っ青です」

 

とてもオペのできる状況ではないと、婦長が医局に連絡した。

難易度の低いオペだった為急遽、別の医師が執刀した。

その話は、すぐに惣一朗の母である理事長の耳に入った。


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美咲
「おかえりなさい」

松宮
「ただいま」

 

憧れていた初恋の人とこんな風に会話を交わし、食事の準備をする。

なんだか夢のようで心が踊った。

 

美咲
「まってて、いま温めるから。
病院の近くだから誰かに会いそうで買い物行けなくて…
冷蔵庫にある物で作ったんだけど、口に合うかな」

 

キッチンへ行き、レンジに豚の生姜焼きを入れ、味噌汁を温め直し冷蔵庫から、サラダを取り出していると、部屋着に着替えた松宮先生が横に並んだ。

 

松宮
「おっ!すごい、うまそうだな」

美咲
「座って待ってて、今並べるから」

 

二人で小さなテーブルを囲み食事をする。

 

美咲
(新婚生活って、きっとこんな感じだろうなぁ……)

 

幸福感に酔いしれる私を、松宮先生の一言が現実に引き戻した。

 

松宮
「立川先生、かなり参っていたよ。捜索願いを出そうと思っているらしい。
一度、連絡した方がいい」

美咲
「捜索願いを?」

美咲
(惣一朗さん、そんなに心配を……帰った方がいいかしら?でも、お義母さまや鈴恵さんが……)

松宮
「ご実家も、心配しているそうだよ」

美咲
「……実家には、連絡します」

美咲
(私は無事だと、母から惣一朗さんに伝えてもらおう)

 

私は、切ったままになっていた携帯の電源を入れ、実家に電話をした。

 

美咲
「もしもし、お母さん」


「美咲! どこにいるの!?大丈夫なの?」

美咲
「知り合いのお宅にお世話になっているの。
惣一朗さんに、心配ないからと伝えて……」


「あなた、あっちのお宅に帰らないの?」

美咲
「しばらく、帰るつもりないわ……」


「もしもし、知り合いってだれなの?」

 

キッチンで、味噌汁が吹きこぼれる音がした。

 

美咲
「じゃあ、切るわね」

 

慌てて、キッチンへ行った為電源を切らず、そのままにしてしまった。

 

松宮
「あーぁ、はげしく吹きこぼれたな」

美咲
「ごめんなさい」

松宮
「相変わらず、おっちょこちょいだなぁ」

美咲
「料理の腕は中々なのよ」

松宮
「まぁ、主婦だからな」

 

その言葉に、二人の間に沈黙が流れた。

 

美咲
(そう、私は主婦……結婚しているのよ)


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豪華な食卓に、芳恵の怒鳴り声が響く。

 

芳恵
「惣一朗、どういう事なの!?オペを投げ出すなんて!」

惣一朗
「婦長と築山の母には、美咲から連絡があった。
なのに、僕の電話には出ない」

芳恵
「あの女の事なんて忘れてしまいなさい!」

惣一朗
「美咲は、僕の妻だ!」

 

惣一朗はそう叫ぶと、自分の部屋に閉じこもってしまった。

 

鈴恵
「お兄様みたいな真面目なタイプが、女にハマると厄介なのよね」

芳恵
「まったく、あんな女のどこがいいのかしら?情けない」

義父
「妻の居所が分からないんだ、そりゃあ、心配するだろ?新婚なんだし」

芳恵
「ふん、勝手に飛び出していったのに…ほっときゃいいのよ」

義父
「それは、お前達が追い詰めたからじゃないか」

芳恵
「やましい事がなければ、出ていかないはずです!」

鈴恵
「そうよ、これ幸いと出て行ったんじゃあないの。何か隠していたみたいだし」

義父
「いいか、帰ってきたら、温かく迎えてやりなさい。家族なんだから」

芳恵
「あなたは、甘いのよ」

鈴恵
「そうよ、あの女にはうちの人間になった自覚が足りないのよ」

芳恵
「でも、惣一朗のあの様子は参ったわね。何と言っても、あの子は医師なのよ。精神が不安定になって仕事でミスを犯したら大変だわ」

義父
「しばらく、オペから外した方がいいな」

芳恵
「オペから外したままではあの子の将来に関わるわ!うちの跡取りなのよ!
しゃくだけど、あの女を探さないと……そうだわ、いい手があった」

 

芳恵は、立ち上がって、電話をかけ始めた。

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松宮先生は、私に紙袋を二つ渡した。

 

松宮
「美咲の着替え、買ってきた。
下着買うのは結構、恥ずかしかったな」

美咲
「あ、ありがとう」

美咲
(私を名前で呼んだ、なぜ?)

 

不思議に思い見つめていると、私の心の中が通じたのか松宮先生が答えた。

 

松宮
「そんなキョトンとした顔で見るな。今の名字で呼ぶのは何だかな…。
かといって、築山じゃないし」

美咲
「私は、なんて呼ぼうかな?」

松宮
「先輩は、もういいぞ」

美咲
「じゃあ、浩太さん?」

松宮
「固いなぁ」

美咲
「うーん…れいさん、こう君?」

松宮
「何でもいい、好きに呼べ」

美咲
「じゃあ、こう君!」

松宮
「あ、布団は重いし買ってこなかったんだ……
一緒でいいだろ?」

美咲
「うん」

美咲
(なんだか、私達……恋人同士みたい)


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芳恵
「惣一朗、今日の勤務は気をひきしめて、取り組むのよ」

惣一朗
「分かってるよ、気のゆるみは医師には禁物だ」

義父
「集中力が必要なオペからは、しばらく外れなさい」

惣一朗
「僕は外科医だ!オペから外れたら、存在価値がなくなる!」

芳恵
「数日だけよ、あの女が帰ってくればいいんでしょ」

惣一朗
「だから、どこにいるか分からないから」

芳恵
「今日中には居所が分かるわ」

惣一朗
「えっ?」

芳恵
「うちは立川病院よ。あらゆる箇所にコネがあるのよ。もちろん警察にも」

惣一朗
「警察?」

芳恵
「あの女、携帯を持っているから、県警の知り合いに言って位置探索をお願いしたの」

惣一朗
「だが、電源を切っている」

芳恵
「入っている方が手っ取り早く分かるみたいだけど、履歴を辿れば位置が分かるらしいわ」

惣一朗
「そうか……」

芳恵
「昔っから、あなたは次々と新しい玩具を欲しがって、何でも手に入れないと気がすまなかったでしょ。
あの女も玩具と一緒よ」

義父
「お前、そんな玩具なんて言い方」

芳恵
「あきたら、捨てればいいのよ。その時は、私に言いなさいね」

惣一朗
「……」

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おにぎりとお味噌汁だけの食卓。

それでも笑顔で、美味しそうに食べてくれる。

そんな些細な事に、心から喜びを感じた。

 

美咲
「こう君、冷蔵庫の中、空っぽだから、帰りに買い物お願い」

松宮
「買ってくるもの、紙に書いといて」

美咲
「なにか、食べたいものある?」

松宮
「そうだなぁ……鍋!ほら、一人暮らしだとやらないからさ」

美咲
「しゃぶしゃぶ、すき焼きとか?」

松宮
「あー、どっちもいいなぁ」

美咲
「じゃあ、じゃんけんしよ!
私が勝ったらすき焼き、こう君が勝ったら、しゃぶしゃぶ」

松宮
「じゃんけん」

美咲
「ぽん! 勝った!すき焼きね!じゃあ、紙に書いとくから」

 

私は、紙に次々と食材を書いた。

 

美咲
「卵、牛肉、長ネギ、しらたき、春菊、しいたけ、焼き豆腐にお麩、
朝食用のパンと、ストック用のひき肉に豚の細切れ、あと……キャベツと大根、じゃがいもと」

松宮
「今日の帰りは大荷物だな。
あ、うち、カセットコンロとかすき焼きするような鍋ないわ」

美咲
「フフフ…!
ほんと、大荷物になるね」

 

話していて、自然に笑うあう。

そんな当たり前な事をこの数ヵ月、忘れていた気がする。

こう君は笑顔で手をふり、出勤していった。

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勢いよく扉が開き、息を切らせた惣一朗が入ってくる。

 

惣一朗
「母さん! 美咲の居場所、分かったって?」

芳恵
「いま、警察の知人から連絡があったわ。とんでもない場所にいたのよ」

惣一朗
「とんでもない場所?」

芳恵
「やっぱり、あの女、女狐よ!」

 

芳恵は、憎々しげに空を見つめて叫んだ。

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ピンポーン、とドアのチャイムが鳴った。

 

美咲
(こう君? どうしてチャイム鳴らすんだろう。
あ、そっか、荷物が多すぎて、ドアが開けられないのね)

 

どうして、ドアの覗き穴から確認しなかったのだろう……。

どうして、帰宅時間には早いと思わなかったのだろう……。

ドアを開けた私を、深い深い後悔の念が包んでいく。

 

美咲
「惣一朗さん……」

 

ドアの向こうには、今まで見たことのない程冷たい表情の惣一朗さんが立っていた。
 

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